福岡高等裁判所 平成7年(ネ)665号 判決 1996年10月18日
平成七年(ネ)第六〇九号事件控訴人・同年(ネ)第六六五号事件被控訴人
東京海上火災保険株式会社
右代表者代表取締役
五十嵐庸晏
右平成七年(ネ)第六〇九号事件訴訟代理人弁護士
田中登
同平成七年(ネ)第六〇九号事件訴訟復代理人兼同年(ネ)第六六五号事件訴訟代理人弁護士
今井幸彦
平成七年(ネ)第六六五号事件控訴人
A
外三名
平成七年(ネ)第六〇九号事件被控訴人
E
外二名
右七名訴訟代理人弁護士
塙秀二
主文
一 平成七年(ネ)第六〇九号事件控訴人の控訴に基づき原判決主文第一項を次のとおり変更する。
平成七年(ネ)第六〇九号事件控訴人は同事件被控訴人らに対し、各金九八一万九三二一円及びこれに対する平成五年四月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
平成七年(ネ)第六〇九号事件被控訴人らのその余の請求を棄却する。
二 平成七年(ネ)第六六五号事件控訴人らの本件控訴をいずれも棄却する。
三 訴訟費用は、平成七年(ネ)第六〇九号事件控訴人と同事件被控訴人らとの関係では、第一、二審を通じて訴訟費用を五分し、その四を同事件控訴人の負担とし、その余を同事件被控訴人らの負担とし、平成七年(ネ)第六六五号事件控訴人らと同事件被控訴人との関係では、控訴費用を同事件控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第一 控訴の趣旨
一 平成七年(ネ)第六〇九号事件主文第一項と同旨
二 平成七年(ネ)第六六五号事件
1 原判決中、控訴人ら敗訴部分を取り消す。
2 被控訴人は、控訴人A、同B、同Cの各自に対し、それぞれ金二四四万二二二二円及びこれに対する平成四年六月二七日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。
3 被控訴人は、控訴人Dに対し、金七三二万六六六六円及びこれに対する平成四年六月二七日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。
4 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
第二 事案の概要
本件事案の概要は、原判決四枚目裏七及び八行目(争点)を次のとおり改めるほか、原判決の「事実及び理由」欄の「第二事案の概要」記載のとおりであるから、これを引用する。
「1 本件事故による甲及び乙の死亡が自殺(心中)か否か。
2 故意による保険事故招致の証明責任の分配はどうなるか。
(一) 平成七年(ネ)第六〇九号事件控訴人・同年(ネ)第六六五号事件被控訴人(以下「一審被告」という。)
本件各保険契約は、被保険者が「急激かつ偶然な外来の事故」により、身体に傷害を被ったことを保険金請求権の発生要件として規定しており、「事故の偶然性」(本件においては「自殺でないこと」)は請求原因事実であって、その証明責任は保険金請求者にある。
(二) 平成七年(ネ)第六六五号事件控訴人(以下「一審原告」という。)ら
一審原告らが請求している自損事故保険金及び搭乗者傷害保険金は、いわゆる定額保険としての傷害保険に属するもので、「急激かつ偶然な外来の事故」により傷害を被った(死亡を含む)ときに保険金が支払われるが、本件のような交通事故においては「急激性」と「外来性」の要件が備わっていることには問題がなく、「偶然性」すなわち予知できない原因から結果が発生することの証明責任が問題となる。そして、本件保険契約における約款では、一方で、被保険者の「故意」ないし「自殺行為」によって生じた傷害(死亡)については保険金を支払わない旨の免責を規定しているところから、「急激かつ偶然な外来の事故」があったことを権利発生要件とし、免責事由としての「故意」を権利障害規定として、前者につき請求者に証明責任を負わせる考え方もあり得ようが、この点は、法規(規定)の文言、形式のみならず、証明責任の公平、妥当な負担の観点をも考慮して、解釈により決すべきである。しかるところ、「偶然性」の証明とは、その事故原因が被保険者の意思に基づかなかったという消極的事実の証明であり、その立証を被保険者に要求することは不可能を強いるに近い。また、約款が「故意」を免責事由と定め、商法六四一条が事故招致を免責事由と定めているのに、「偶然性」の立証を請求者側に負わせるのは、免責事由の不存在の証明を被保険者側に求めるものであって、証明責任を転嫁する結果になり不公平である。そして、商法六四一条の保険事故招致の保険者免責の理論的根拠として、信義則説、危険除外説、公益説等が有力とされているところからすれば、保険者側に信義則に反する事実あるいは公序良俗に反するとの事実の立証をさせるのが相当であると考えられる。以上によれば、「急激」及び「外来」の事故であること(権利発生要件)の証明責任は被保険者(請求者)側にあるが、保険事故の「偶然性」(権利障害事由)の証明責任は保険者側にあると解すべきであり、本件でも、事故が故意によるものであること(保険事故招致)は保険者側に立証させるべきである。
3 乙の損害額
4 附帯請求の起算日はいつか。
(一) 一審被告
自動車損害賠償保障法一六条一項に基づく保険会社の被害者に対する損害賠償額支払義務は、期限のない債務として発生し、民法四一二条三項により保険会社が被害者から履行の請求を受けた時に初めて遅滞に陥るものと解されている(最高裁昭和五九年(オ)第六九六号同六一年一〇月九日第一小法廷判決・裁民一四九号二一頁)し、その請求は、自動車損害賠償保障法施行令三条、六条の規定により一定の事項を記載した書面により必要な書類を添付して行うことが義務づけられており、保険の実務でも定型的な書類の提出が必要とされてきたところ、そのような様式性は当該保険の公共的性格及び保険実務の事務処理上、必要かつ合理的というべきである。平成七年(ネ)第六〇九号事件被控訴人ら(以下「被控訴人ら」という。)が本訴の提起以前に一審被告に右の請求をしたことはなく、仮に一審原告Aにより請求がなされたとしても、同人は被控訴人らの代理人ではないし、その請求は前記の方式によっていないから、請求としての効力はない。被控訴人らが請求した日は、本件訴状送達の日である平成五年四月一二日である。
(二) 被控訴人ら
自動車損害賠償保障法一六条一項による被害者請求について、同条は書類によることを要件としておらず、政令の定めは保険事務の統一的運用に資するためのものにすぎない。また、民法四一二条三項にいう付遅滞の要件としての履行の請求は、債務者側にとって債務の同一性が分かる程度に内容が判明していればよく、かつその方式は問わないと解されるところ、一審原告Aは、平成四年七月一日に、乙の相続人である被控訴人らの代理人又は使者として、一審被告の代理人である福岡トヨペット株式会社田川営業所の田尻潤に対して口頭で、又は一審被告飯塚営業所の藤原某に対して電話で、それぞれ右の保険金の請求をした。」
第三 証拠
証拠の関係は、原審及び当審の訴訟記録中の各書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。
第四 争点に対する判断
当裁判所は、甲の本件事故による死亡は自殺によるものであると推認すべきであるから、本件の自家用自動車総合保険契約に基づく一審原告らの請求は理由がないと判断する。
また、乙の死亡を原因とする被控訴人らの請求中、右保険契約に基づく搭乗者傷害保険金請求が理由がないこと及び自動車損害賠償保障法一六条一項に基づく被害者請求が可能であることについては、被控訴人ら及び一審被告に不服がないが、その被害者請求の付遅滞の時期は請求のときであって、本件では訴状送達の日であると判断する。その理由は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決の「事実及び理由」欄の「第三判断」に記載のとおりであるから、これを引用する。
一 原判決四枚目裏末行に「甲第五号証」とあるのを「甲第五ないし第七号証」と、同五枚目裏一〇行目の「本件事故車両」から同末行から同六枚目表初行にかけての「割れていた。」までを「本件事故車両は身体障害者用のオートスピコン(足を使用しないで運転できる装置)を取り付けたいわゆるAT車で、本件事故当時は、変速ギヤは二速に入っており、手で操作するブレーキ装置及びサイドブレーキはいずれもブレーキを掛けた状態にはなっていなかった。また、前後輪のホイルには車止めを乗り越えたときに付いたと認められる凹損が一箇所ずつあり、右後輪のタイヤはパンクしており、車体の前面及びフロント部分は、ボンネットが剥がれ落ち、バンパー中央部が上に押し上げられた状態に変形し、フロントガラスが網目状に割れていた(なお、フロントガラスの左前部の穴は本件事故車両を海底から引き上げる際に空けられたものである。)が、全てのドアはロックされ窓が閉められていた。」と、それぞれ改め、同六枚目三行目の「変形量である」の次に「(なお、海面への衝突の場合には、海面が緩衝材の役割を果たすので、前記の速度を遥に上廻る速度で突入したことになる。)」を、同行の末尾に続けて「なお、本件事故車両は海底からクレーンを用いてフロント部分を上にして引き揚げられたが、その際、甲には特に外傷はなく、運転席にシートベルトを着用したままの状態で座っており、乙は眉間部に傷があり、後部座席に飼い犬と一緒に寄りかかった状態となっていた。」を、それぞれ加える。
二 原判決六枚目裏九行目の冒頭から同七枚目表三行目の末尾までを次のとおり改める。
「1 甲は、昭和三二年に炭鉱の落盤事故により脊髄に損傷を受け下半身不随になり、車椅子を用いる生活になったが、下肢に激痛をを伴う後遺障害(幻肢痛)がある上、昭和四二年ころには急性心筋梗塞の疑いで田川市立病院に入院したこともあるなど、心臓疾患もあって、永くその治療のため通院を継続していた。
2 甲は、最近では昭和六三年六月二八日に、狭心症、心筋梗塞(疑い)で○○市立病院に入院し、七月一日に退院したものの、その後も慢性疾患患者として外来で診察を受けていたが症状は好転せず、平成元年七月二日には胸部圧迫を訴えて救急車で来院し、心室性期外収縮があったため入院となり、翌三日に退院した後も不整脈や心室性期外収縮の症状が続き、ニトログリセリンの服用などで対処していた。他方、後遺障害による下肢の激痛も継続しており、診療録上は平成二年五月から鎮痛のためSMコンチン(硫酸モルヒネ)が用いられたが、その使用の継続に伴い次第に鎮痛の効果が上がらない状態になっていた。」
三 原判決七枚目表末行に「幻視痛」とあるのを「幻肢痛」と改め、同裏二行目の「遠位端骨折」の次に「、右足関節骨折、右肩関節周囲炎」を加え、同六行目に「甲は、平成四年五月一五日ころには、」とあるのを「甲の後遺障害による下肢の激痛は依然継続しており、従来の鎮痛剤では効果が薄れて来たため、麻酔科の医師とも相談して、平成四年五月一三日には硬膜外神経ブロックを行ってみたが、効果にむらがあって全く効果がないときもあり、同月一五日ころには、」と改め、同七行目に「口走る等し、」とある次に「付き添っていた妻乙を叩いたり蹴ったりもし、」を加え、同九行目に「担当医師」とあるのを「心療内科の医師」と、同一〇行目に「妻に負担をかけることになったことが原因で、」とあるのを「身体に対する不安が増大し、妻に負担をかけることから、自分がいない方がよいと考えるようになったようであり、」と、それぞれ改める。
四 原判決八枚目裏八行目の冒頭から同九枚目表二行目の末尾までを次のとおり改める。
「1 本件事故車両は、平成四年四月二人日に納車になったばかりであり、甲は、当時歯科にも受診中で歯冠の補てつも予定されていたし、本件事故当時、自宅には電灯も点けたままで、干す前の洗濯物なども放置されていた(甲第六号証、第一二号証の一、二、原審での一審原告D)。
2 甲が、外泊の許可を得た日の翌二七日(この日は前記の自家用自動車総合保険契約の保険期間の開始日に当たる。)の小雨の降る夜間に、自宅から本件事故車両で一時間以上も離れた本件事故現場まで出掛けた理由・目的は不明であるが、同人は魚釣りを趣味とし中津方面に海釣りに出掛けたこともある(原審での一審原告D)。」
五 原判決九枚目表六行目の冒頭から同一〇枚目表三行目の末尾まで(四争点1についての全文)を、次のとおり改める。
「1 前記一ないし三認定の事実に照らして検討するに、本件事故は、小雨の降る夜間に、港湾施設内でその先が海面であることが分かっている本件事故現場において、本件事故車両の運転者である甲としては海面直前に螢光塗料の塗られた車止めが設置されていることに気付いたはずであるのに、ブレーキもかけず、AT車の変速ギヤを二速に入れた状態で、何らの回避措置もとらずに一直線に海面に突入するという態様のものであり、しかも、本件事故車両前部の損傷の程度や岸壁からその沈んでいた位置までの距離、本件事故車両の全ホイルに車止めを乗り越えた際の凹損があり、右後輪にパンクが生じていることなどからすると、その際の速度はかなりの高速であったと認められる。加えて、本件事故車両が海面に転落した後もしばらくは海面に浮かんでいたはずであるのに、甲が脱出するための方策を講じた形跡はみられないのであり、これらのことからすれば、甲が誤って本件事故車両を海面に転落させたと考えるのは極めて難しいというべきである。
もっとも、甲は、魚釣りを趣味としており、本件事故車両のトランクにも釣り具が搭載されていたが、魚釣りに必要な餌は発見されていない(乙第一四号証)ことからすると、当日は夜釣りに出かけたものと直ちには考えられず、甲の魚釣りの趣味は本件が単なる偶発的な事故であったことを窺わせる事情とはなりえない(むしろ、甲は中津方面にも海釣りに出かけたことがあり、それよりも自宅に近い本件事故現場付近にも海釣りに訪れたことがあると考えられ、そうだとすれば、甲は本件事故現場の前面が海面であることについての土地勘があったとも考えられる。)
また、本件事故のいわば背景事情として、甲の病状は、前記二で認定した経過をたどっており、一時的には痛みが和らぎ気分が良くなることもあったにしても、その下肢の激痛は相変わらず改善されず、心臓疾患もいわゆる発作が頻発し改善をみない状態であって、そのような病状に置かれて三五年以上も闘病生活を強いられれば、誰でも精神的に安定を欠いた状態になり、自暴自棄になって自殺を図ることもありうるし、現に精神的にうつ状態に陥って自殺を試みたり、その願望を口にしたりしていたことがあることが認められる。
なお、甲が自殺を考えていたこととは矛盾するような前記三1の事実や、本件事故車両に乙も同乗していたことなどの事情はあるが、前記の病勢からすれば、いわば発作的に自殺を思い立つことも十分考えられるところであり、右の諸事情の存在は、本件事故が甲の自殺行為であることを必ずしも否定する材料となるものではない。
以上の事実からすれば、甲による本件事故は、自殺を意図したものであったと推認するほかないというべきである。
2 次に、乙が甲の妻として、甲の病状を熟知して長年その看病に当たっていたもので、甲の心情を理解した上で心中を図ったものと考えうる余地もないではないが、乙には、それ以上には特に自殺しなければならない事情があったと認めるべき証拠はない。また、前記三1の認定事実(自殺を考えていたことと矛盾するかの事実)のうち洗濯物を放置していたことなどは乙の行為であると考えられるほか、本件事故の際に乙が本件事故車両の助手席か後部座席かのどちらに乗車していたかは不明であるが、本件事故車両が海底から引き揚げられた際の前認定の車内の状況からすれば、本件事故車両が海上に浮遊していた間に乙が車外への脱出を試みることが可能であったのに敢てしなかったものと断定することはできない(受傷等のために脱出行動がとれなかったか、仮に助手席にいたとすればシートベルトをはずして脱出しようとしたが成功しなかったことも考えられる。)。したがって、証拠上は、乙が必ずしも自殺する意思であったとは推認できない。結局、乙の死亡が自殺(甲との心中)によるものであると認めるには足りないというほかはない。」
六 原判決一〇枚目表四行目の冒頭から同一一枚目表三行目の末尾までを、次のとおり改める。
「五 争点2について
争点2については、前記四(争点1について)で認定したとおり、本件事故による甲の死亡は自殺(故意)によるものと認められ、本件の保険契約上、免責事由に該当するので、本件事故の偶然性が請求権発生の要件かどうか及びその立証責任の帰属について判断するまでもなく、一審原告らの本件自損事故保険金及び搭乗者傷害保険金の請求は理由がない。
また、乙についての搭乗者傷害保険金の関係は、その請求を棄却した原判決に対し被控訴人らからの控訴がないから、当審の審判の対象外であり、判断の要がない。
さらに、乙の相続人らである被控訴人らの自動車損害賠償保障法一六条に基づく請求については、その一部を認容した原判決に対し、被控訴人らからは控訴がなく、一審被告の控訴の範囲が附帯請求の点に止まるから、一審被告が原判決認容の範囲内における損害賠償額の支払義務を負うことは動かすことができない。」
七 原判決一一枚目表四行目に「五 争点2について」とあるのを「六 争点3について」と改める。
八 原判決一二枚目表初行の次に改行の上、次のとおり加える。
「七 争点4について
自動車損害賠償保障法一六条一項に基づく保険会社の被害者に対する損害賠償額支払債務は、期限の定めのない債務として発生し、民法四一二条三項により保険会社が被害者から履行の請求を受けたときに初めて遅滞に陥ると解すべきことは、一審被告の指摘するとおりである。ところで、自動車損害賠償保障法一六条一項は、請求の方式について何ら規定するところがなく、その請求権の行使は要式行為ではないと解されているが、同法施行令三条一項は「法一六条一項の損害賠償額の支払の請求は、次の事項(一号ないし六号を掲げる)を記載した書面をもって行わなければならない。」と定めており、多数の請求事件を画一的に迅速かつ適確に処理するために請求の方式を定めて運用することには合理性があると考えられる。しかし、同法一六条一項の請求権は、当該保険契約にかかる加害自動車の保有者につき運行供用者責任が発生すると同時に履行期にあるのであり、これにつき保険会社を遅滞に付するための請求(催告)の方法としては、必ずしも同法施行令所定の方式によらなければならないものではなく、加害者、被害者、加害自動車及び加害行為を特定して、被害者が損害賠償額を直接請求する趣旨であることを保険会社に伝えれば足りると解するのが相当である。
そこで、本件の場合、いつその請求があったかを検討するに、甲第一三号証の一、二、第一四号証の一ないし三及び当審での一審原告Aの供述によれば、一審原告Aが平成四年七月一日ころ、一審被告の保険代理店でもある福岡トヨペット株式会社飯塚営業所の社員に本件事故につき一審被告への連絡をしてもらい、一審被告の北九州支店飯塚損害サービス課が平成四年七月八日に事故の受付をした旨の連絡をしてきたこと、一審原告Aが同年九月及び一〇月に前記飯塚損害サービス課の担当者と電話で話したことは認められるが、それらのやりとりの内容は、甲が加入していた自家用自動車総合保険契約の契約内容の確認と調査の進展状況を聞くのが主であって、自動車損害賠償保障法一六条一項に基づく被害者の直接請求をする趣旨のものに当たると認めるのは困難である。
したがって、被控訴人らが一審被告に対して、平成四年七月一日に同条の被害者請求をしたとすることはできず、その請求は、一審被告が自認するとおり、本件訴状の送達によってなされたと認めるべきであり、一審被告は訴状送達の翌日から遅滞に陥ると解すべきである。」
第五 よって、一審被告の控訴に基づき、原判決の主文第一項を本判決主文第一項のとおり変更することとし、一審原告らの本件控訴を棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、八九条、九二条、九三条に従い、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官友納治夫 裁判官有吉一郎 裁判官松本清隆)